娘を信じて疑わない親バカがそこにいたわけです<元検弁護士のつぶやき>
ある覚せい剤事件の公判 [横浜地検]
それほどドラマチックな公判(裁判)というわけではないのですが、忘れらない公判があります。
横浜地検公判部当時の裁判でした。
横浜地検は部制庁ですから、公判部の検事は第1回目の法廷で初めて被告人の顔を見ます。
覚せい剤自己使用の事件で、被告人は若い初犯の女性でした。
顔を見ると、一見反省しているように見えます。
自白事件でしたので、焦点は情状、特に再犯の可能性です。
情状証人として被告人の父親が出てきました。
そこそこの会社の部長か課長クラスの方と記憶しています。
仕事は相当のやり手で自信満々というタイプです。
弁護人からお父さんに対する質問が始まりました。
聞いていますと、このお父さん全く危機感がありません。
「娘は事件の重大性をよくわかって心から反省してます。」
「娘は二度と覚せい剤に手を出しませんし、出させません。」
文字にするとそうでもないのですが、顔を見ると危機感や緊張感といったものが何も感じられないのです。
娘を信じて疑わない親バカがそこにいたわけです。
実は、私は弁護人に開示していない証拠を持っていました。
別に隠し球のつもりはなく、こんな証拠を出すと被告人が可哀想かなと思って出すのを控えていた証拠なのです。
それは被告人が警察に尿を提出したときの写真撮影報告書だったのですが、その写真には、被告人が自分の尿を入れた容器を手に持ってカメラに向かい、にっこり笑ってVサインをしているところが写っていたのです。
弁護人の質問が終わりました。今度は私(検察官)の番です。
私 あなたはほんとうに娘さんが事件の重大性を自覚していると思っているのですか?
父 はい、そうです。
私はここで、件の写真撮影報告書をその場で弁護人に開示し、証拠調べ請求をしました。
弁護人も私の意図を察し、同意しました。あるいは渋々だったかもしれませんが。
そして私はその写真をお父さんに示してこう聞きました。
私 これが事件の重大性を認識している人間の顔に見えますか?
お父さんの顔色はみるみる変わっていきました。
自分の認識がいかに甘かったのかをはっきりと悟ったことがわかりました。
それを見て、私は内心ほっとしました。
わかってくれる父親でよかったと。
以後、法廷の空気は一変し、父親も容易ならざる事態であることが理解できたようでした。
審理が終わって裁判官が退廷するときに、「今日はいい法廷だった。」とつぶやかれたのが印象的でした。
モトケン (2005年11月 1日 16:10) | コメント(7) このエントリーを含むはてなブックマーク (Top)
引用:ある覚せい剤事件の公判 [横浜地検] - 元検弁護士のつぶやき
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