2013年2月24日日曜日

裁判官というのは、「威信」が大事なんですね<元検弁護士のつぶやき>



裁判官の身分保障

 井上薫判事の再任拒否問題によって、裁判官の身分保障について国民の関心が高まるとすれば、たいへん良いことだと思います。
 そこで、私も裁判官の身分保障について確認かたがた少し調べてみました。

 裁判官の身分保障というのは、言い方を変えますと、裁判官はそう簡単には辞めさせることができないということですので、裁判官がその身分を失う場合を見てみます。

憲法第78条
 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

 「公の弾劾」の手続と罷免要件は裁判官弾劾法が定めています。

裁判官弾劾法第二条 (弾劾による罷免の事由)
 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一  職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
二  その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。

 私の目を引いたのは、第二号です。
 裁判官というのは、「威信」が大事なんですね。
 つまり、裁判というのは、本質的に権威主義的なものだということでしょう。
 これについては特に反論はしません。
 裁判には従う、というのが法治国家の大原則だと思うからです。
 だからこそ、裁判官がどういう人間か、が重要になるわけです。

憲法第79条
1項 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2項 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3項 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4項 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5項 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6項 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

 最高裁判所裁判官の国民審査に関する規定です。
 最高裁判所の裁判官は国民審査で投票者の多数が罷免を可とするときは罷免されるわけですが、ここで注意すべきは現在の手続を見てもあきらかですが、罷免の理由は問うていないということです。
 最高裁判事の意見や判断が気にくわないという理由でも罷免を可とする投票ができるわけであり、それが「多数」ならば罷免されることになります。
 国民審査は現在実効性のある制度かどうか疑問がありますが、その存在意義は大きいと思います。

憲法第80条
1項 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を10年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2項 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

 下級裁判所裁判官の再任に関する規定です。
 下級裁判所裁判官の形式的任命権は内閣にあるが実質的任命権は最高裁判所にあると読めます。
 そして、再任については、文言上は、任期10年が原則であり、語弊はありますが、再任は例外的であると読めます。
 しかし、それでは下級裁判所裁判官の司法の独立は守れませんから再任が原則であると考えるべきです。

 つまり、任期10年の経過により一旦リセットして、最高裁が新たに一から再任の可否を判断するというのではなくて、再任を原則とし、再任を拒否する場合は最高裁がその理由を明らかにし、拒否対象の裁判官に対し弁明の機会を保障するべきだと考えます。

 裁判官だって生活がかかっているわけですから、意に反する転職は避けたいと思うのが当然であり、再任拒否の理由が明示されないと、最高裁の顔色をうかがう裁判しかしなくなるという迎合的効果や顔色をうかがう余りに自由な判断ができなくなる萎縮効果が生じるおそれがあります。

 しかし、憲法第80条があるということは、再任拒否があることを当然のこととしているのであり、再任拒否自体を不当なものと言うことはできないと考えます。

 問題は、

 1 再任拒否を正当化するに足る理由とは何か
 2 その判断の前提となる資料の正確性は担保されているか
 3 手続の透明性は確保されているか
 
だろうと思います。

 最高裁は現在再任拒否の理由を明らかにしていません。
 井上薫判事の場合はマスコミが報道し、また井上判事自身が積極的に発言されましたので少なくとも問題の所在は明らかになりましたが、これは例外的な場合のようです。

 tamagoさんのブログ「日々を大切に(齢はとっても気持ちは若く)」の再任問題 井上判事の記者会見によれば、形式的には依願退職の形で再任拒否をされる裁判官が多数おられるようです。
 これでは手続の透明性もなにもあったものではないということになります。
 
 裁判官の人事や処遇は裁判の全体的な傾向に大きな影響を与えますから、最高裁の人事政策が適切な判断の下になされているかどうかは、常に監視・批判されなければなりません。
 国民は、弁護士は選択できますが、裁判官は選べないからです(検事も同様ですが)。

  tamagoさんは元裁判官の女性弁護士さんのようで、そのお話は傾聴に値すると思います。

  tamagoさんは下級裁判所裁判官指名諮問委員会の制度に批判的ですが、私は以前よりましになった、少なくともましになる可能性は高くなったと評価しています。
 問題は、委員各自の自覚と情報公開のあり方だと思います。
 たしかに個々の裁判官の再任拒否理由を具体的に明らかにすると弊害が生じるかもしれませんが、少なくとも本人には開示され、弁明の機会が保障されることは不可欠だと思います。

 tamagoさんは、井上判事にエールを送っておられます。
 私はこれまで何度か井上判事に批判的な記事を書いていますが、再任制度に関する関心を高めた点においては、井上判事の行動はとても意義があったと思います。
モトケン (2005年12月26日 21:37) | コメント(5) | トラックバック(2) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:裁判官の身分保障 - 元検弁護士のつぶやき


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