この事件の主たる責任は、検察幹部が負うべきものと考えます<元検弁護士のつ
ぶやき>
最低の検察独自捜査(改定版)
先のエントリで引用させていただいたwillwin さんのブログ「株は世につれ」に検察の証拠隠しが問題になっている「佐賀市農協事件」と「布川事件」について、鳥越俊太郎の「ザ・スクープ」が紹介されていましたので、動画ファイルを見てみました。
ここでは、検察が警察抜きで独自に捜査した「佐賀市農協事件」について感想を述べてみたいと思います。
事案は、佐賀市農協が不正融資をしたということで、当時の組合長ら3人が起訴されたというもののようです(西日本新聞の記事)。
「ザ・スクープ」では、不正融資の存在自体については何も触れていませんでしたが、問題になるのは以下の点です。
まず、「融資」の事実の存否が問題になりますが、これが立証されていないなどとは考えられません。
次に、それが農協に損害を与えるような「不正な」融資であったかどうかが問題になりますが、この点については情報がありません。一審で有罪になった人がいますから、証拠としてはあるのでしょう。
しかし、起訴された3人のうち、組合長は一審無罪(高裁で無罪確定)、元金融部長に懲役1年6月、執行猶予3年(高裁で無罪)、元共済部長に背任ほう助罪で懲役8月、執行猶予2年(一審確定)というものであり、一審確定の元共済部長の刑は公判請求事案として軽すぎることからすると、仮に不正融資と言えるとしても、裁判所から見るとたいした事案でなかったことが伺われます。
そして一審有罪確定の元金融部長も、執行猶予2年ということで控訴を諦めた可能性が高く、もし控訴していたら高裁無罪の可能性はかなり高かったのではないかと推測されます。
仮に、不正な融資が行われたとして、最後に問題になるのは、「誰が」不正融資を行ったかですが、起訴された3人のうち、二人は無罪となり、元金融部長の関与も怪しいとなると、結局検察は完敗です。
「ザ・スクープ」を見る限り、本件の捜査の端緒は告発のようですが、検察は告発状の内容を鵜呑みにしてストーリーを作り上げ、関係者の手帳などのいの一番に確認すべき物証の確認を怠ってアリバイ捜査をせずに共謀の日時場所を特定し、恫喝をもって虚偽自白を強要し、そのような自白に基づいて起訴したあげく、問題が生じてからあわててアリバイ捜査をして検察に不利な証拠を押収しながらそれを隠そうとする(最後には公判に提出)など、基本からはずれまくった捜査をしています。
虚偽自白の強要については密室の中のできごとですが、検察が取り調べ検事を処分していることから、最高検は少なくとも恫喝的取調べは認めたものと考えていいでしょう。
まったくひどい捜査です。
容疑者を逮捕した後でも、その弁解を虚心坦懐に聞いていれば、こんな結果にはならなかったでしょう。
最初から起訴ありき、だったように思われます。
そうだとすると、そんなものは捜査ではありません。
容疑者の身柄を拘束するということに対する感覚の麻痺も感じられます。
最も重要な問題は、なぜ検察がこのような捜査を行ったかです。
「ザ・スクープ」では、捜査の現場責任者でかつ元組合長の取調べ検事である三席検事を実名で槍玉にあげていましたが、検察が他庁の応援を得て(「ザ・スクープ」による)独自捜査をするとなると、三席検事の一存でできることではありませんから、検察庁幹部の意向が強く働いていたことは容易に想像できます。
その意味では、私は組織人としての三席検事に若干の同情の念を感じてしまいます。検事としては失格というべきですが。
この事件の主たる責任は、検察幹部が負うべきものと考えます。
検察幹部がどういうつもりで本件に着手したかは推測の域を出ませんが(一つの濃厚な可能性は推測できますが)、佐賀地検は県民の信頼を失い、警察からも馬鹿にされる結果になったことは確実です。
この関係で、鳥越氏に一言いいたいのですが(後でもう一言いいますが)、鳥越氏は「ザ・スクープ」の中で取調べの可視化に関連し、マスコミは取調べ等に関与した捜査官や捜査幹部(次席検事や検事正)の実名を公表すべしと述べていました。
私は思わずつぶやいてしまいました。
だったら、あなたが真っ先に公表すればいいでしょう、あなたもマスコミ人でしょう。
と。
「ザ・スクープ」で実名(と映像・顔写真)が公表されたのは三席検事だけでした。
ついでに鳥越氏にもう一言。
今朝の朝のワイドショーで、鳥越氏が渡辺恒雄氏と対談していたのですが、日米同盟のことが問題になり、渡辺氏が、「日米同盟がなければ北朝鮮が脅しをかけたりしてくる」(若干不正確)と発言したのに対し、鳥越氏は「日米同盟があっても拉致事件は起こった。日米同盟は何の役にも立っていない。」(かなり正確のはず)と応えていました。
こういうオールオアナッシングの発想の人はいまいち信頼できません。
もっとも、渡辺氏も「日米同盟についてはアメリカと日本の国益が完全に合致する」などと言っていましたので二人とも五十歩百歩だと思いますが。
訂正にあたっての追記
本エントリの当初において、本件捜査にあたって検事正と検事長の下世話な動機の可能性について言及しましたが、どうもそうではないようです。
当時の検事正と検事長の名誉を不当に傷つけた記述をしてしまったことにつきまして、訂正と謝罪をいたします。
しかし、その上で敢えて組織の最高責任者としての検事正及び検事長の責任は軽くないと申し上げます。
本件の捜査は、裁判状況等に関する報道からほぼ確実に推知し得る範囲におきまして、あまりにもお粗末です。
実はこのことが捜査の現場からやや距離がある検事正や検事長の意向を邪推した理由の一つなのですが、検事正や検事長としては、まず第一に現場が暴走しないように監督する責任があります。
そしてさらに言えば、現場の捜査が筋違いであったことが明白になった場合には、直ちに方針転換をする職責があり、そのための度量が求められると思うのです。
本件のアリバイ捜査の顛末はその観点から見てはなはだ遺憾です。
落合弁護士がブログで詳細に解説されていますが、本件捜査は筋を読み違ったものと思われます。
そのことによって佐賀地検は深手を負ったわけですが、それが明らかになった後の検察の対応は、その傷をさらに深めたものといえます。
その責任はといえば、それは庁の長たる者の判断にあると言わざるを得ないでしょう。
モトケン (2006年5月 3日 15:57) | トラックバック(2) このエントリーを含むはてなブックマーク (Top)
引用:最低の検察独自捜査(改定版) - 元検弁護士のつぶやき
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