被害者の名誉を守る、またはより害さないために、<元検弁護士のつぶやき>
逆転無罪(強制わいせつ)
強制わいせつ罪の男性、福岡高裁が逆転無罪判決(2008年2月6日13時42分 読売新聞)
女性(当時42歳)の胸を触るなどしたとして、強制わいせつ罪に問われた長崎県島原市の男性(44)の控訴審判決が6日、福岡高裁であり、陶山(すやま)博生裁判長は、女性の供述の信用性に疑問があるなどとして、懲役6月、執行猶予3年とした1審・長崎地裁島原支部判決を破棄し、無罪を言い渡した。
この種の事件において、被害女性の供述の信用性に問題があるとして無罪になった場合、被害女性の名誉が著しく害されることになります。
刑事訴訟においては、「疑わしきは被告人の利益に」という大原則がありますから、信用性に疑問が生じれば、つまり信用していいかどうか判断に迷うというような状況になれば無罪になるわけですが、一般の方から見れば、被害女性がいい加減な話をした、または嘘をついたと見える可能性があります。
その意味では、被害者の名誉を守る、またはより害さないために、起訴前の捜査段階において、被害者の供述の信用性と強固さ(弁護人の反対尋問に耐えられるか)を慎重に判断する必要があります(どの事件でも同じですが)。
そのためには、捜査官が被害者から被害状況を聞く場合において、被害者の言葉を鵜呑みにするのではなく、疑問点を徹底的に解明するという姿勢で臨む必要があります。
被害者だから真実を正確に語るとは限りません。
私が、取調べの姿勢(被疑者に限らず被害者、参考人でも)としていつも口にするのが、「信用しながら疑う、疑いながら信用する。」という言葉です。
本当らしいけど、ひょっとしたら勘違いかも知れないし場合によっては嘘が混じっているかも知れない。荒唐無稽っぽいので基本的には信用できそうもないけど、ひょっとしたら真実かもしれない、という感じです。
その結果として、根掘り葉掘り聞くことになります。
被害者からすれば、不愉快なこと、腹立たしく思われる質問もしなければなりません。
そして、他の関係証拠もあわせて検討した結果、この部分については間違いなく真実である、と確信が持てる事実に基づいて起訴していれば、そうそう簡単には無罪にならないと思います。
確信が持てなければ毅然として不起訴です。
捜査段階において、被害者にはかなり不愉快な思いをさせることになりますが、それが被害者の名誉を最大限に守ることになると思います。
本件の捜査がどういうものであったかはわかりませんが。
以上は警察官と検察官に対する注文みたいなものですが、裁判所に対しては以下の弁護人のコメントは少し気になります。
船木誠一郎弁護士は「1審判決も、女性の供述の信用性に疑問を指摘しながら有罪とした。有罪ありきの判決だった」と批判した。
一審判決がどのような言い方をしたのかわかりませんが、被害女性の供述の信用性に疑問があるのなら、無罪になると思います。
被害女性の供述の信用性に疑問があるのに有罪にできるのは、被害女性の供述以外の強力な証拠がある場合のはずですが、そのような証拠があるのなら高裁で逆転無罪になる可能性は低いはずです。
「有罪ありきの判決だった」と思える判決は、私も受けたことがあります。弁護人としてですよ。
モトケン (2008年2月 6日 18:33) | コメント(3) このエントリーを含むはてなブックマーク (Top)
引用:逆転無罪(強制わいせつ) - 元検弁護士のつぶやき
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