2013年2月10日日曜日

いずれにしても被告人から見て味方はいないという状況です<元検弁護士のつぶやき>

 初めて読んだ記事のように思いました。コメント禁止にされる前のエントリのはずですが、自分のコメントもないようです。


検察側が自白調書撤回

 これまで何度か紹介していますが、有力な弁護士ブロガーの一人の落合弁護士は私と同じヤメ検ですので、特に刑事事件については感覚に似たようなところがあります。
 今回取り上げるのは、「夫バラバラ殺人、検察側が自白調書撤回 東京地裁 歌織被告は任意性否定 」です。

 落合弁護士は中日新聞の記事を以下のように引用されています。

検察側は「犯罪事実は被告人質問で十分立証できた」として、証拠請求していた捜査段階の被告の自白調書などを撤回した。検察側が被告の供述調書の請求を取り下げるのは極めて異例。裁判員制度を意識し、裁判の迅速化を図る目的とみられ、今後、同様のケースが続くとみられる。 一方、歌織被告は被告人質問で「警察官や検察官の取り調べで、怒鳴られたり脅されたりして、不本意な調書を作られた」と述べ、供述が任意ではなかったと主張。取り調べの際に検察官から「風俗で働いていた。犬畜生と同じだ。おまえの事件なんて、どうせ男とカネなんだろ」などとののしられたと述べた。検察官の作成した調書の内容を否定し続けると、以前中絶した時の胎児のエコー写真を机の上に並べられて「法廷でこの写真を出していいのかと脅された」と訴えた。

 検事の取調べ状況に関する被告人の供述に関するさらに詳細な報道として産経ニュースがあります。

 歌織被告「検事は『風俗なんかで働いていた汚い奴め、お前は犬畜生と一緒で生きている価値がない。お前の刑を決めるのはおれだ。おれの前で頭を下げてみろ』と、そういうことを言われ続けた。それに対し、私が『違う』とずっと言い続けていると、終いには私が以前に堕ろした子供のエコー写真を並べて、『法廷でこの写真を出されてもいいのか。法廷でマスコミの前に出してやるからな』と言われた」

 産経ニュースを流し読みした限りにおいて、検察官はこの被告人の供述に対して何の反対質問もしないで被告人質問を終わらせています。

 そうなりますと

 自白調書の任意性を争われ、その理由を具体的に述べられた後に、検察官が請求を撤回すれば、やはり任意性に問題がある自白調書だったから、という印象を裁判所に与える可能性が高いように思います。(落合ブログ)

 となるのは自然な流れだろうと思います。
 私も、被告人が言うような取調べを検事がした可能性が高いな、と思います。
 落合弁護士は「裁判所に」と書いていますが、裁判員裁判が始まれば当然「裁判所」の中には裁判員が含まれてきます。
 産経のような法廷のやりとりを詳細に報じるメディアによって、国民の多くにも同様の印象を与える可能性が生じてくるでしょう。
 そしてその中から別の事件の裁判の裁判員が選任されてくることになります。
 検察はその点をどう考えているのでしょうか。

 最近、公判担当の検事(公判部の検事)と話をしますと、裁判員裁判に向けての準備やトレーニングをかなりやっている感じがします。
 しかし、捜査部(刑事部など)の検事がどう考えているのかについて、今回の被告人質問ははなはだ疑問を抱かせます。

 はっきり言いまして、取り調べ検事が報道されたような言動を実際にしたのであれば、検事の取調べとして最低です。
 検事としての適格性がないと言ってもいいです。
 被疑者を侮辱し、恫喝することによって真実を語らせることができると思っているとしたら、極めて危険なことです。
 そのような検事は冤罪の山を築く可能性があります。

 取調室というのは密室です。今のところは。
 検事と立会事務官と被疑者しかいません。
 被疑者を連れてくる警察官もいるのが普通ですが、検事が指示すれば退席させることも可能なはずです。
 いずれにしても被告人から見て味方はいないという状況です。

 こういう部屋で取り調べをしていますと、「俺が一番偉いんだ。俺はこの部屋では何を言ってもかまわないんだ。俺が想定している事実を語らせればいいんだ。俺の書く調書に署名させればいいんだ。」と思ってしまう検事がいても不思議はありません。
 被告人の供述の中の検事はまさしくそういう検事です。

 もちろん、被告人を取り調べた検事が被告人が供述したような取調べをしたのかどうかについては断定することができる資料を持っていません。
 上司は担当検事本人に問いただしているかも知れませんが。

 しかし、問題は、裁判官、裁判員、報道を読んだ国民(裁判員予備軍)が被告人の話を信用するかどうかです。(※)

 さて、産経の記事を読んだ皆さんはどう思われたでしょうか。
 こういう調べが行われた可能性はあるな、と思った人がかなりいるのではないかと想像しています。

 つまり、取調べ検事としては、自分が取り調べた被疑者に、法廷でこんなこと(一般論的には任意性や信用性に疑問を生じさせるような内容)を口にさせるような取調べをしてはいけないのです。

 取調室は密室かも知れません。
 しかし、検事が取調室で発した言葉は、すべて被告人の口によって法廷で語られる可能性があるのです。
 ですから、こんな取調べは絶対にしてはいけないのです。
 ここまでひどくなくても、被告人に誇張されたり揚げ足をとられるような調べをしてはいけないのです。
 
 このように言うと、一部の若手検事から、「じゃあ、どうすればいいんだ。」という声が聞こえてきそうですが、そういう検事は落合弁護士のブログを読んで「人間力」というのはどういうことなのかということを自分で考えていただきたいと思います。
 私が任官した直後に、厳しい取調べをすることで有名な検事ほど任意性を争われない、という話を聞いたことがあります。
 これだけ書くと誤解が生じそうですが、要するに、検事に被疑者を納得させる力があるかどうかだと思います。

(※)
 まったく任意性に問題がない取調べをしたとしても、被告人が嘘八百をでっちあげて任意性を争う可能性はあります。
 今回の事件で検察官が被告人調書の請求を撤回したことを知った別事件の被告人の中には、ともかくひどい取調べを受けたと法廷で言えば自白調書をちゃらにできると考える者が出てきても不思議はありません。
 そうなると、取調べの可視化が一気に加速するのではないでしょうか。
 いずれにしても、まともな調べをすることが大前提ですが。
モトケン (2008年2月14日 17:22) | コメント(30) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)




引用:検察側が自白調書撤回 - 元検弁護士のつぶやき

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